無言電話/小川 葉
 
 
無言電話がかかってきた
その人の部屋にある
テレビの音が聞こえているだけだった
わたしはその音を聞くけれど
その人には聞こえていない

わたしはテレビを持っていないから
その音をたよりに
テレビを楽しむことにした
それなりに楽しめた
おきまりのお笑いのシーンや
おきまりの商売くさいコマーシャルも
テレビを持っていた頃と
たいして変わらない気がした
無言電話のその人も
たいして何も変わっていないのだろう

無言のままだった
無言電話なのだから
それはしかたがないけれど
インターネットのある時代に
あえて無言電話をしてしまうのは
あるいは無言電話という
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