あたらしいカフェー/小川 葉
その通りには
あたらしいカフェーができていて
まだ知らない店の中で
まだ知らない
手紙の返事を書くことにした
手紙の主は誰か
わたしがいつか
書いた手紙を読んで
書いてくれた
わたしが
その手紙を書いたのは
いつなのか
わからないまま
通りには
あたらしいカフェーができていて
昔からそこにあるように
店の中を目をつむってさえ
歩くことができた
そこにいる誰もが
手紙の主で
返事を書いてくれたすべての人
のような気がした
記号のようにみな
同じ顔をしていて同じ厚さの本を読み
誰とも話さず
誰とも会わずに
出てゆくのだった
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)