臆する/殿岡秀秋
ないのだ
と柔らかな黒髪に呼びかける声は
喉の洞穴に吸いこまれる
ぼくはひとりになって
オフィスの荒野で
視えない雨に打たれる
幼いころから
何か始めて
少しうまくいきだすと
胸に雲が湧き
自分にはできるわけがない
という声が
雨となって落ちてくる
鉄棒でも
漢字の書き取りでも
面子遊びでも
竹馬でも
時間はゆっくりと
その場を去る
でも
ぼくは残してきている
雲が垂れこめている
古代都市の遺跡の
道に沿って並ぶ柱のように
目の大きな子どもが
雨に濡れて
いくつも立っているのを
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