駅で待つ/飯沼ふるい
電車のドアが閉まる
それを見送る
乗るべき電車は
まだ来ない
*
僕の帰る町にも
やみそうでやまない
雨は降っているのかしらん
*
「あまりよく知らない人たちと
暮らすのは
何といいことだろうか」
幸せとは
動くことだと言った
アランの言葉
*
雨のなか
人の疎らな私鉄の駅で
次の電車を待つ
あまりよく知らない人たちと
*
白線の中で
静けさを約束しあい
ベンチに腰をおろした
僕たちの微妙な距離
*
空いた時間
改めて自分と世界の
距離を確かめる
*
ベンチの横に置いた荷物を
膝の上へ戻す
投げ出した足を正す
あまりよく知らない人への
「自分を正そうとする」
ささやかな気くばり
*
駅で待つこと
体を時間にあずけること
あまりよく知らない人たちとの
無言の会話を
続けること
世界の音に
耳を澄まして
僕は僕の話ばかりに
耳を傾けないこと
*
電車のドアが開く
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