錦繍/水町綜助
クラッカーが鳴らされた
遠い船旅への出航にも似て
さまざまな色の
無数のリボンが流れては
黒い羅紗の床を汚してゆく
ひとつの別れなのか
祝うべきことなのか
知らない
どこへかを
リボンは伸び続けた
長い時間の中を
ゆくうちに
ときに細く磨耗し
ときに枝分かれ
横はしる一本を巻き込み絡みながら回転し
らせんを描いたし
気付かず綾をなし
縦横に広がる一枚の布を織りなしもした
そして明け方の軒先に薄い闇を見つけて
張られた蜘蛛の巣のように
結ばれた露にはあまさと
煤煙の苦みがあった
*
月をみたり
いつまでも輪郭をとらえることのでき
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