さようなら図書館/小池房枝
とつひとつの本たちの在り処
「世界は一冊の本」なのだと
日の光り、星の瞬き、鳥の声
川の音だって
本なのだからと
長田弘は言っていたけど
だからこそ
一冊一冊の本もまた
日の光りで
星の瞬きで
鳥の声で川の音だったのに
街も、数字も、数式のようなものも
人生も宇宙も
全てを
大きく深く擁して
世界そのものだった図書館
さようなら図書館
わたしは新しい恋人を探す
同じ図書館は二つとないことをもう
思い知らされはしたけれど
図書館ひとつでさえ
去らねばならぬとなればこんなにせつない
家や土地や国を追われたひとびとは
どんなにかと思う
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