さようなら図書館/小池房枝
 
同じ図書館は二つとないね
どの図書館も違う

引っ越したあとも使っていた
利用者カードの期限が来て
今度は更新できない

一度別れてしまった恋人の手や髪や唇には
二度と触れられないように
いつでもまた来られるけど
もう
借りることは出来ない

喫茶室のコーヒーとアップルパイ
ガヴァガイ問答をした司書さん
謎のヤングアダルトコーナー
小さいひとたち用のイスとテーブル

冬には日差しが深くさしこみ
大人たちは街での振る舞いそのものを持ち込み
それでも
たいていはいつも
活気を秘めた静かさを湛えていた図書館

今でも
こんなにも明るく思い出せる
ひとつ
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