恋人よ、君の入れ歯が見たい/狸亭
 
ぼくの愛する人 ぼくの恋人よ
きみの歯が入れ歯になるまでの一世(ひとよ)
その時までずっと一緒に居たい

あの遠い山宿に生まれた期待
かぎりなくつづく田舎道の散歩
きみの部屋でともに聴いたあのコンポ

いつもきみに会うたびにこの喜び
幸福の時間を未来へと運び
けれどいつまでつづくだろう突然

さびしい予感にふるえて愁然
恋人よきみの入れ歯が見たいなと
いつかそう言った ぼくらは赤い糸

きっと目に見えない糸でつながれて
死ぬまでふたりで一緒だ 言われて
おおきな瞳の中にこらえきれぬ

不確かさをたたえたきみの隠れ沼(ぬ)
水面にゆれる微笑みのさざ波
ああそんなきみとの未来の営み

きみの笑顔 ぼくの胸をさわがせる
薔薇の舌 真っ白な歯が色褪せる
ああぼくはきみの入れ歯が見たいのだ

七転八倒 春蚓秋蛇(しゅういんしゅうだ)
世界中で一番愛している
恋人よきみの入れ歯に眺め入る

老いらくの時を約束しておくれ
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