哀傷/亜樹
 
りんと張り詰めた冬の朝を
切り裂きながらとんびは飛ぶので
わたしは腹立たしくってしょうがない。

庭に下りた霜が
椿の赤を焼いている。
やめてください、どうか、どうか後生ですから。
どうしてわかってくれないのです。
それは炎の色ではないのですから。
熱を伴う想いではないのですから。

窓ガラスに張った氷の蜘蛛の巣が
緩やかに緩やかに溶けて
微かに漂った春の気配に
飼い猫は大きく伸びをする。

りんと張り詰めた冬の空気は
もう切れ切れに飛散して
わたしの手元には
そのひとひらが降った。
ぎゅっと大事に握る込めば
それはあっさり解けてしまう。
とんびはくるくる円を描いて飛ぶ。
ああここいらはもう冬ではないのだ。

そのことがかなしい。
わたしはかなしい。
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