山葡萄の血/亜樹
 
 悦子は小学5年生である。
 悦子の通う小学校は、とても小さい。全校生徒は、100人にも満たない。
 悦子の家は、学校から3キロばかし離れている。悦子は入学したときから、小さな足でその距離を歩いて通っている。同じ方向から通っていた友人は、3年の冬、父親の仕事の都合で都会の学校へと転校した。以来、一人で悦子は登下校している。
 ここいらでは、変質者よりも熊の方が遭遇率が高い。悦子の赤いランドセルには、学校で配られた熊よけの鈴が二つ、つけられている。リンリンとそれが可愛らしく鳴っていた。
 長い下校の途中、悦子の最近の楽しみは、山葡萄の実を握り潰すことである。
 それは、登下校中の山道に点々
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