コンバース/かいぶつ
空にはしごが掛かっていた
消防車よりも
うんと長いはしごだ
足元には
きれいに綿布で包まれた
弁当箱が置いてある
きっと箸箱のように
明るい性格の奥さんが
毎朝持たせてくれるのだろう
僕は甘い玉子焼きや
煮豆のことを考えながら
はしごの先っぽを
見つめていた
すると空から
ペンキ塗れの
コンバース・オールスターが
2足落っこちてきた
まるで自転車のゴムチューブに
大穴が開いてしまったような
気の毒な音だった
またこの町から
腕の良いペンキ屋さんがひとり
帰らぬ人となってしまった
「こんな天気の良い日に
洗濯物を干すこと
それがいちばんの幸せ。」
そんな声が聞こえてきそうな
正午だった
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