まほしくおかし/aidanico
暫らく連絡を取っていない誰かに挨拶をするとき、
その導入をどうしようかしばしば悩むことがある。
届けようと思った言葉はパイポのように湾曲して、
伝えたいフォルムとは全く違うマチェールで描かれ
べっとりとだらしなく塗られたインキは相手には、
陰湿な印象しか与えない。ではどうだ、相手が挨拶
するのを待ってから対応を考えれば良いではないか
っていったって今連絡を取りたいんだよ、今。自分
が伝えたいと思う瞬間と、それが正しく伝えられる
間には、時差というものがあるのだなあ、と切々と
感じさせられる。でもそれは、間を惜しく侵してい
るとしか思えて仕方が無いのだ。疾風の如く流れる
思考や言葉は間違いなくその瞬間に滲み出ている物
であり、時間を隔ててしまえばその色彩はくすみ影
さえ落としてしまうかもしれない。常に彩度をおと
すことのない言葉は、もう既に幾つもあるのだろう。
喋らないのはその言葉を未だ知らないからだ、或い
は語感だけがリフレインしている、まほしくおかし。
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