クロスレット・シルバー /いすず
羽鳥がうなずくのが見えた。
天使のようなひとみが、じっとなみだをこらえながら見ていた。
羽鳥が、自分の首のクルスの数珠をたぐって、主の祈りをとなえはじめた。
千尋は少しずつ、瞬きを繰り返す羽鳥の眼の輝きを見守っていた。
ひとは、自分の重荷をおろすとき、神様といっしょにいるのだよ。
なつかしい父の声がした。
そんなとき、その銀のクルスはおまえとともにいる。魂の導きで出会う友を、たいせつにしなければならないぞ。
いつもほがらかに笑っていた父。誰をもうらやまず、ねたまず、そねまず生きていた父。その父のひろい背を、もう一度千尋はまぼろしのように見つめた。父の背が、ただしずかに語っていた。だれ
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