はじまりの一日/小川 葉
もう長いこと
あなたと暮らしてきたけれど
もし今日が
はじまりの一日だったなら
僕はあなたに何を言えばいいだろう
と考えた
暮らしてきた日々とひきかえに
これからも暮らすための
決心とひきかえに
僕は何が言えるだろう
もう長いこと
言えなかったそれを
このごろ生意気になった息子が
一言ももらさずに
恥じらいもなく堂々と
僕のかわりに言う
もし今日が
はじまりの一日だったなら
あなたが
笑う顔を見て
僕はもう
何も言わなくてよかった
今日もまた
あの日とおなじ
大切な
はじまりの一日なのだから
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