向かって/かんな
 
わたしは助走する
ふり返る季節にはきっと
落し物などない

雪で描いた夢は
春を待って溶けゆくけれど
消えはしないよと
誰かが言う

春になればまた
花びらが夢を咲かせる
たとえ散りゆくものが
あったとしても

あなたが口ずさむその夢が
夏の風に流されながら
波打ち際に
行きついたとしても

秋の稲穂のように
夢がうなだれながら
殻にこもったまま
動かなかったとしても

消えはしないよと
誰かが言う
ふり返る季節にはきっと
落し物などない

走り抜けてきた季節に
お辞儀をしながら
わたしはまた助走する



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