四行連詩 独吟 <樹>の巻/塔野夏子
とほどたやすくこぼれてしまう
と 彼女は呟いた
大きな樹の下で
木洩れ日をまぶしそうに 見あげながら
*
どうしようもないいくつかの気持ちは
胸にたたんで
雲の上で会おう
空の青に触ろう
*
空色のビーズの指環を失くしたのは
たぶん 暦からはぐれたような
あの春の日 思いがけず入りこんだ
小さな中庭 噴水そばのベンチあたり
*
図書館の中庭には
銀木犀のかおり
そこで交わした言葉たちの中には
たやすくは名づけられない 夢と傷と
*
僕達は まるで無邪気に
思いつくまま 果敢ない作戦を立て
ビー玉みたいな暗号を いくたびも交わした
星のように散らばる 砦たちのあいだで
*
梢に星々を奏でる樹が
円い丘の上にあり
樹のそばには水晶の椅子があり
銀の服のアルルカンが坐っている
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