六角の箱庭/小川 葉
箱庭の蓋が
ぴったり閉まらない
出会った頃は
普通の箱と蓋だったのに
一緒に暮らしてると
角が立ってしまうこともあるから
そのせいかもしれないわねと
妻はまるで
人ごとのように笑う
そもそも箱庭には
蓋なんてあったのだろうか
数えてみたら
角は六つもあった
おたがい
完璧にわかりあえることなんて
できないかもしれないし
おたがい知らないことだって
もしかしたら
それくらい
あるということかもしれないけど
隣の奥さんが
蓋が閉まったわよ、あなた
と叫んでる
その日はたしか
旦那さんの命日だった
少し泣いてるようだった
奥さんの
知らない女の人が
葬儀に参列していたことを
僕は思い出していた
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