君の背中に追いつかない/秋桜優紀
緩やかな光が零れ、草いきれを辺りに漂わす新緑を透かして、アスファルトを淡く照らす。優しく吹く風は木々を揺らし、その揺れに驚いた小鳥が二羽、三羽と飛び立つ。呆れ返るくらい平和すぎて、見ているだけで欠伸をこぼしてしまいそうになる春と夏の境目。この季節が好きな私は、この空気が永遠に続けば世界から戦争はなくなるのになあ、とか何とか短絡的に思ってしまいます。
「もうやだ」
既に何度目かわからない独白を空に放り投げ、真っ白なシーツの上で寝返りを打った。棚に据えられた花瓶に生けられた、見事な花束が目に入ってくる。
「あんた、また、そればっかり」
私の横で林檎の皮をむいていた母が、果物ナイフを握
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