サーカス/小川 葉
 
 
 
 大人は道化師のふりをして、子宮を配る。子供たちが記憶の中に、ゴムの匂いを思い出してることが、不思議でたまらないのだけれど、避妊された(あるいは否認された、風船からこぼれてしまった、命のはじまりのような液体が、固体としてなお白くにごり続ける、道化師の白塗りの顔が、溶けてゆく様子を自分の姿に重ねて、わたしたちはかろうじてこの世界で、形を保っているのだ。子供は道化師のふりをした、大人に魂を売る。ほんとうは売りたくはなかった。けれど、子供はたいていそんなふうに 売るものを売ることでしか 魂でありえない。テントの中から覗いてる、老いた子供が(あるいは汚れてしまった獣が、足の裏にとても重いものを
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