帰し方の甘露(仮題)/やなし
 
ぞず
 ぞず
 ぞず

やがてすっかり水が引き
隠されるもの閉じられるもの



蝉の翅が落ちている





 ぎぃいこ
 ぎこ

あいもかわらず
呼んでいる

 ぎぃころ
 ぎいぃころ
 ぱとたたん

「足りんのだろうよ」

口にだしてみる

もちろん
どうにもまいってしまっているのは
私のほうだ

わたしはどうにも
恋しいのだ


 ぎいぃころぎいぃころ
  ぎ

  ぱたん


戸が閉まる
とたんに部屋が震えだす
ちらちらと
ふるふると

やがて畳の目が押し上げられ
あちらではフキ
こちらではツクシ
ややあって
大きなぜんまい

わらび
タラノメ
いたどり
ミツバ
たけのこ



 ぎぃぎぃぎぃ

 ぱたたたた
 ぱとたと
 ぱとととt

 (それから一寸、ドスンドスンと米俵の足音)

 ぱとぱとぱとぎぃこ
 ぱとたたたたたぎぎぃこ



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