[夢合わせ〜二夜]/東雲 李葉
 
でね」
覗き込んだ落差の怖さ。海の底には沈没船。
狭い水辺で戯れていると、いつのまにやら沖に出ていて、
身の毛もよだつ恐怖が染みる。足元を浮よつく千切れた片足。
誰のものだ。私じゃない。いつのまにか知り合いだった母子でもない。
いや、誰のものでもいい。私はそれに気付きたくない。
顔色を変えず平静を装い、私は知らないふりをしていた。
やがて片腕、もう一方の脚と腕を見かけても、
驚きの声さえ外に漏らさない。常に傍観者でいるために。

あれは誰のものだったのか。
私とは違う道を辿ったあの若い男のものか。
最早そんなことはどうでもいい。
あれらはまるでそんな私に気付いてほしそうに、
何度も足元に現われては触れもせずに漂っていた。
私はそれから目を逸らし続け、
やけに明るい色をした空の色を飲み込んでいた。
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