世界/小川 葉
 
 
雪の上に寝そべりながら
ぼろぼろと落ちてくる雪を見ていると
それは錯覚なのだろうけれど
空をどこまでも昇ることができる

このまま
天国までいけるような気がして
目を瞑り
目を開けてみると
いつかの家の居間の片隅で
僕は毛布に包まって眠っていた

食卓には
亡くなった祖父と祖母
まだ若い父と母
それに生まれたばかりの妹が
夕ごはんを食べている

ここは天国なのだろうか
僕はその食卓をずっと見ていた

僕のいない食卓
僕のいない家族
僕のいない世界

天国はいつもそのようにある
そこが世界だと思えば
僕はずっとそこにいることができたのに

目を瞑り
目を開けてみる
雪はすっかり止んでいるので
もうそれ以上
空を昇ることはできない

僕は立ち上がり
僕が世界だと思う
この世界を歩きだす
 
戻る   Point(5)