空以外の空/小川 葉
その人のことを
空さんと呼んでいた
空さんは
だだっ広くどこまでも
青くなったり赤くなったり
涙したりして
人のようだった
空さん
時々丘の上から
呼びかけてみるけれど
空さんは
自分に名前があるなんて
知らないのだから
何もこたえない
命にはなぜかたちがあるのだろう
かたちを変えて流れてゆく
空が空以外になるように
佐藤さんがいなくても
それ以外に佐藤さんがいるように
いつも見てくれる
ぼくのことを
一人ぼっちじゃないから
人は空を
空さんと呼びたくなる時がある
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