段差のない家/小川 葉
 
れから
一匹の蜂に追われて帰った
団地内を出るまで
その蜂は追いかけてきたけれど
敷地から出ると
いつのまにか
どこかへいなくなっていた

それは春なのか
夏なのか
秋だったかもしれないし
冬だったかもしれなかった

もう一度だけ
団地に住む友人の家に行ったのに
どこにも見つからなくて
ただそこいらへんじゅうから
蜂の羽音が聞こえてくる

段差のない家から
段差のある世界をもとめて
家を出て行ってしまった
友人の無口な声に
蜂の羽音は似てるような気がしていた
 
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