缶詰/かいぶつ
 
テレビの音が消えた時間に
アイロンをかけている
母親のすがたを見るのが好きだった
折りたたんだ洋服を
きれいに積み上げてゆく
母はやさしくて
いろんな話を聞かせてくれた

母は成人式の思い出を
なんどもうれしそうに話していた
しわが全部伸ばされると同時に
僕は布団へ 小さな体を埋めた
うつぶせでしか眠れない僕は
よそ見ばかりする子に育った

夜中に 雨戸をそっと開いて
縁側に座りながら
静けさを散歩した
空気を吸い 吐き出すと
生きているのが
自分だけのような気がした

植物がおいしそうに水を飲む
音が聞こえてきそうな夜明けに
幽霊のように産まれてく
[次のページ]
戻る   Point(6)