僕らの海/小川 葉
 
 
みんなにせめられている
ふつうなら
今にも泣いてしまいそうな
そんな君に
気のきいた言葉のひとつやふたつ
かけてあげられたのに

他人なら
他人だったなら
そんなもの
どうだってよかったのに

ひとつの言葉さえ知らない
ひとになって
気持ちだけがあふれている
海になっていた

思えば君には
二人だけになれた時だけ
ほんとうのことが話せた気がする
おそらく君も
そうだったように

いつか君と
二人して海を見ながら
沈む太陽をどこまでも見とどけながら
とりとめのない話ばかり
していた気がする

ふつうなら
みんなにせめられている
君をすくうため
人目なんか気にしなくて
言いたいことが言えたはずなのに

今僕も
みんなにせめられている
君が流す涙におぼれてるばかりで
ふつうではない
みんなたちと
溺死するよりほかない
そんな気持ちになっている
 
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