冬とかげろう/木立 悟
何処へゆく何処を向いても冬の日に無数の星のなかのかげろう
読み仮名は誰のためでもあらずしてただ自らの崩れし証
細く在るからだすべてに陽を浴びる幽かな声さえ熱のかげろう
息の根も無音も無いまま在るいのち外なる揺らぎ内なる鏡
ひかり喰みひかりを纏い動かないひかりの殻に混じるかげろう
狼を追い払いまた請い願い野には野のみの足跡ぞ棲む
手のひらの裏の手のひら知らずして全の手のひら語るに落ちぬ
つながりもつながり無きも同じこと常に怒りの渦に討たれて
夜の火を咬み砕いては撒き散らす片刃の陰を滑るかげろう
羊からこぼれる経血ふくみゆく羊飼いの短い無限
明け方の月の歪みを聴きながらおまえの胎を荒らすけだもの
揺らぎから鏡からただ離れゆく無数のひとつ緑かげろう
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