夏の収穫/水町綜助
入り組んだ路地を幾つも
曲がって歩いていると
街を知るように街を見失い
緑色に光る道に出た
夜のうち街灯は光るようで
電球をみれば灯りは点いていない
靴音が聞こえないので足元を見れば
履き忘れてきてしまった
緑色の光は
ビルの壁一面にはびこった蔦やら
実った果実の味だった
ひんやりとした地面は
じゃりじゃりと砂っぽくて
雨もあがったあとの
その先の見通せない水滴のなか
立ち上る、農園のにおい
八歳の夏
信州の小さな村の
山あいの菜園で
実った赤いトマトや
産毛みたいにやわらかな手触りのオクラ
そして青いキュウリの収穫を手伝った
さほど高いというわけ
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