アンナ/タマムシ
 
りしました。それでもわたしはひとりになるのが怖かったので、怒ったりもせずにやさしくやさしく愛情をこめて語りかけました。けれど犬のアンナは人の言葉を知らなかったので、わたしに返事をしてくれることはなく、それが悲しいと伝えたかったのに、ある日突然、部屋から逃げ出してしまいました。

また残されてしまったわたしは、アンナを探して街を歩きました。どこまでもどこまでも歩きつづけました。道行く人は、わたしをときおり変な目で見たけれど、わたしは気にせず歩きつづけました。アンナ、アンナ、アンナ、どこにいるの?わたしをひとりにしないでアンナ、わたしの喜びや悲しみをすべて受け止めてアンナ。どれくらい歩いたのか、わたしはようやくアンナをみつけました。

砂浜にひざをついて、青い青いアンナにわたしは、それまでのすべてをうちあけました。アンナは何も言わずにわたしを受け入れて、わたしは人の言葉ではあらわすことのできないことをからだじゅうで感じながら、涙の味がするアンナの中で、ようやく泣くことができました。

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