夜/いねむり猫
夜は 言った
静かに目を閉じていなさい と
不眠に何度も寝返りを繰り返すあなた
赤い南天の実に降り積もる淡雪のように
あなたの薄いまぶたに 冷たい手をあててあげましょう
夜はつぶやいてる
痛みを闇で吸い取ってあげましょう
次の寝返りを手伝ってもらうまで 耐えるしかないあなた
朝霧が芽吹いたばかりの葉に寄り添うように
痛む背中を 暖かい薬湯に浸して そっとさすってあげましょう
夜は 黙っている
夕食を持って帰ってくるはずの母を ただ暗闇の中で待つ子供に
暖かい陽の光と 滋養に溢れた無花果
風にゆれるコスモスの花弁
ラベンダーのむせるような香りと 梢から呼びかける小鳥たちと
それらすべてを合わせても
青ざめた頬を 一瞬包んでくれる 母の手には 遠く及ばないから
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