初恋/小川 葉
下校中
ぼくは君の背中ばかり
見ていた気がする
とても小さな水が
生まれる場所をめざして
いつもの帰り道は澄みわたりながら
永遠みたいに流れていた
君の背中はとても自由に見えた
そんな気がはじめはしていたけれども
毎日君の背中を見ていると
けっしてそうではない日があると
思う日もあった
君の名前は知らなかった
だからぼくは
勝手に君の名前をつくって
勝手に呼び
話しかけていた
心の中だけで
君の背中だけが友達だった
いつもその角で
君は消えてしまった
ぼくはそこでさよならを言うのだった
声に出して
さよなら以外に話しかけたことが
ひとつもなかった
卒業式の日
ほんとうのさよならを
言わなければならなかった
君の名前をはじめて呼んだ日
それは初恋なのだと
はじめて知った
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