ここに魚を/オイタル
天井から
夜が下りてくる
お父さんは四十年生きて
長かったなあと思う?
布団の中の息子が
息継ぎに顔を出す
しみじみする口のまるい形
「ささやかなこの人生」とつばを飛ばしてナカジマは歌い
ぼくは寝返りを打って布団に足を突っ込む
四十年を か?
あらためて聞き返すぼくの耳に
返事はなく
三メートル四方の暗い水槽の四隅に
寝息がただよう
あちらに五年
こちらに十年
浮遊する四十年を
思いとどまって耳をそばだてれば
静かに息を整える魚
ひれを揺らし
行きつ戻りつする
魚
今朝 水槽の水を取り替えて
玄関先にも水を撒き
杉の木の天辺からカラスが
音
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