玄関先?鴨川の料亭で飛田新地を思うー /雨傘
 
 新世界の酒場でおねいさんが言った
  ここまで来たついでに
  飛田新地の風情でも
  見物していらしたら
 ほろ酔い加減で振り返ったその店の看板は
 女郎さんの襦袢にみえた
    ※
  玄関先という舞台で
  浄土のような照明が
  少女の肌を白銀に光らせる
  安物のロマンチシズムを引き受けた
  その細い手首がおとこたちを招く
 客はみな 灯りが漏れる格子戸を覗き込み
 一息おいて
 からからと開ける
  わたしは
 「おまちしておりました」
 と、畳に頭を近づけ
 立ち上がる
 白い襦袢が脛をかする
    ※
 鴨川のほとりの料亭で
 飛田新地の遊郭で
  交わることも
  殺すことも
  食すことも
  生まれることも 
 日々
 わたしたちの傍にある
―そう、生きるために売ればいいー
  少女とわたしは
  玄関先で目配せをする
  いつかの艶やかな衣装を纏って
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