幻惑の街角/kauzak
図書館前の信号に続く道へ曲がったはずだった
携帯メールをチェックしながら歩いている
右側から強い光を感じて振り向くと
接骨院の白と緑の看板を目が捉えた
瞬間
現在地を見失い見知らぬ街角に投げ出された
ような感覚に襲われる
沸き上がろうとする不安を振り払うように
八百屋がパン屋が食堂がデイサービスセンターが
あるはずの方角に顔を向ける
すべてが灯を落として夜に沈み
強烈な白と緑の光に塗りつぶされていたけど
光の先に彩度のない色で淡く滲む輪郭を
確認できてかろうじて日常にとどまれる
けれど一度波立った心はすぐには鎮まらず
見上げた墨色の夜空はまだ他人行儀で
僕が歩く速度より速く遠ざかって行く気がした
曇りがちな空に月が滲む
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