ひとつの運命論/小川 葉
車に轢かれそうになった
安全な横断歩道を
渡ろうとしただけだった
君を庇えなかったことや
庇わなかったことの
すべてが脳裏を過ぎてゆく
そのとき車は
ぼくらの手前で停止した
からだのように生きていた
そのすべてを語り合った
すべてはひとことふたことで
足りてしまうから
足りないものだけが増えてしまった
日々の中で
ぼくらはひとつだった
いつだって
通り過ぎてゆくだけで
止まることのない
ぼくらはそれでも
轢かれそうになりながら生きていた
生きていくしかなかった
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