泪/新谷みふゆ
 
咲いたほど溢れ、実ったほど零れ、満ちたほど落ち、
綺麗なほどとどまらずに、端から乾いては光の奥へ、
消えた、蜃気楼、紅く、藍く、朝はただまぶしくて。

少女の夢のような速度で、光って、透明な日々の歌、
胸へ押し込み、葉陰から現れた、生まれたての蜥蜴、
影も形も残さずに、何を想い、何処へ行くのだろう。


歪んだ世界で純粋に生きる、憧れを背にくくりつけ、
踏み出す度に、蜥蜴は皮膚を震わせ、心臓を震わせ、
奏でられた歌、あなたまで這う歌、ただ流れ落ちて。

頬が知る、やさしい雨の感触は、蜥蜴の記す夢の跡、
疲れたあたしを洗い流す、二度と逢えない森への道、
見えない傷痕、ぬくい痛みだから、裸で笑っていた。


誰にもみつからずに、夏の雨、すぐに乾いてしまう、
人知れずに蜥蜴、育って、永遠とでも想えるような、
紅く、藍い、乾いた歌を、あたしの頬に描けばいい。

開いたほど黙り、垂れたほど散り、結んだほど解け、
呼吸する口元、小さな息で、呑み込んだ、朝、泪は、
いつか、全て、蜥蜴、光のような、海になる日まで。
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