蛍/小川 葉
 
 
むかし恋をした
ひとたちの
面影のすべてが
あなたにはあるものだから
恋がいくつあっても
足りることはなかった

肩をならべて
星空を見ていた
あなたが僕の
僕があなたの
肩に肩が触れてしまうと
まぼろしになってしまうから

ずっと同じ距離のまま
見つめあうことだけがゆるされて
ゆるされる限り
恋の話をしていた

それは目には見えないけれども
恋にお墓があるのなら
一緒に入りたいものだね、と
きれいな歯を見せて
蛍が飛んだ
 
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