はちみつ/キキ
 
ビルのあいま、一瞬の
うろこ雲の縮れたすきまに満たされた
蜜のような光りを執拗に覚えて
暗い夜の始まりに
歯形を残すように
ギターのグリップをかじる
コードを知らないなんて嘘
長調のはしばしから星がこぼれてくる、痛い
と昨日まではおおきな声で言えた


腕の、肘から先がぐるんと伸びて
夜の樹になる
わたしの影があなたを覆い
暗がりはどこまでも広がって
見失わないように枕とシーツと爪の先を
縫い付ける
祈ったりはしないでね
そのくちびるでは
どうか
窓は閉めて
夢のひとつも逃げないようにする
狭い部屋にぎしぎしと枝が
わたしたちは案外どこまでも伸びてゆけ
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