あたたかいものを、ひとつ/小川 葉
セーターが
箪笥の中で冷たくなって
死んでいたので
あたためてあげようと
思った僕のからだも死んでいた
箪笥には
僕以外にも
死んでしまった
家族のセーターがきれいに
冷たくなったまま
きちんとたたまれていて
お墓のなかのような
感じがした
やがて誰かたちが
つぎつぎとやってきて
箪笥からセーターを取り出して
首をくぐらせると
あたらしい家族が
ひとつひとつ
蘇生するように
あたたかいものになっていった
かつて僕も
そのひとつだったように
たたまれた魂は
冬になるたびにそこを訪れた
知らない
ということは
そういうことだった
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