[夢合わせ]/東雲 李葉
鯉の群生する湖を汽車、あるいは貨物車が走り
当たり前にそこにある線路と魚を見つめている
母と乗った貨車はやがて大きく傾き
母は無事に着水させ娘の私を投げ出した
カバンの中身がばらばらと澄んだ水に弄ばれて
私は失くすまいと必死にそれらを掻き集める
その時私は水面に浸る母よりも散らばるリップや鏡のほうが気掛かりで
丁度よくある母の背中に迷わず重たいカバンを載せた
載せたのだ 濡れて重たい自分の荷物を
母の背中に 母は息ができないのに
躊躇いもしないのだ 乱暴な手で当然に
どうでもいいのだ 母の呼吸の数なんて
汽車は構わず鈍行で
私は端に掴まり呑気に泳ぎ
母はさっきから動く気配を少しも見せない
いや、この話の最初から母は動いてなどいなかった
動いていたのは汽車と鯉と
自分を決して失わないよう必死に藻掻く私の手だった
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