書簡−瞳の道筋−/構造
ウォーレス・カロザースがナイロンの合成に成功したのは
すくなくとも1935年のことです。彼がうつうつとした体を引きずりながら
デュポン社の研究所にたどりつき、ぶつぶつと誰にも聞こえないような
独り言を言いながら研究服に着替え、その延長でこの高分子体を発明したときに
大声でエウレカ、と叫びながら、己の成果を全世界に訴えかけるような
アルキメデスのような開放と官能はありませんでした。むしろため息をついて
じろりと、いくつも纏まれば、すくなくとも理論上はこの地球をしばりつけて
ふりまわすこともできるような細く透明な光沢をながめていたのです。
そこでたとえば"美しい”という感
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