「 幸福駅 」 /服部 剛
 
送迎車で 
地域のお婆さんの家を訪ねたら 
陽だまりの窓辺で 
お婆さんは 
まだ寝ていました  
部屋の奥の遺影から 
若き日に世を去った夫が 
年老いた妻を今も見守っていました 
隣の額縁には 
山の中の小さいホームに停車した 
SL機関車が煙突から 
黒い煙を上げています 
白い看板に書かれた文字は 
「 幸福駅 」 
世の中の 
あらゆる人が 
心の何処かで探している 
たった一つの駅は 
お婆さんの家の
壁に掛けられた 
白黒写真の中に 
ありました 
「 ○○さん、老人ホームにいきますよ 」 
寝ぼけ眼のお婆さんを 
ゆっくり起こして 
手を取り 
陽だまりの廊下を 
玄関へと歩きます 
背後から 
若き日の夫のまなざしと 
遠い何処かのSLが走り出す 
汽笛の音を聞きながら 
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