指定席/小川 葉
つか
その席を立ち上がるまで
荷物をまとめて降りてゆくひとたちの
席がまだあたたかいうちにも
誰かがすぐにすわるのだ
遠い駅でその席を
予約してくれた父と母が
まだ産まれていない僕ののことを
待っている
そこにはながいあいだ誰かがすわりつづけ
ひとつ前の駅で降りたばかりなので
まだくぼんでいて
あたたかい
僕が産まれてすぐに亡くなった
ひとのことは覚えてないけれども
そのぬくもりだけは知っている
そのひとが
産まれて生涯すわりつづけた
その席が
僕の命の指定席になったので
顔がとてもよく似ている
戻る 編 削 Point(4)