<SUN KILL MOON>-fine/ブライアン
の中は煙臭かった。重なっていた。煙が。机が、1枚の紙が。ペンが。友人は欠伸をした。もう寝るよ、と言う。机に置かれた紙を手で持ち上げる。眠りに着く前に、部屋を出よう。扉を開く。もうすぐ夜明けだった。外へ出る。正面には月があっただろうか。目の前には紺色の空があった。朝が夜と触れ合う。重なる。涼しい夏の日だった。バイパスを横断する。雀の泣き声がした。車はほとんど通っていない。信号機が虚しく青く光る。家に着いたら、すぐに眠ってしまうだろう。眠気が襲ってきていた。
無数のグリッドなどいらない。ましてや触れることの出来ない言葉などなんの役に立つのだろう。「井戸」の場所を知る必要はなかった。それはどこでもない。無数の命が、生れ落ちた場所なのだった。そこから何を見たというのだろう。それもまた、同じだ。何ものでもない。無数の命がそこにあっただけだ。そして、無数の命の死が。鮭のようだ。チルチルとミチルのようだ。生まれた場所を知るために、遠くへ視線を投げる。そして、再び「自分」へと帰ってくるのだ。
渋谷、センター街。生れ落ちた場所は、いまだ見つからない。ここは「井戸」の底だ。
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