長い夜/佐々宝砂
組織に属しているという実感が、
私の心臓に鋼鉄の壁を作り上げる。
その壁よりさらに強固な壁を持つ
巨大な鉄の箱のなか、
ひとたらしのとまどいもないまま、
私は突き進む。
強大なベルトコンベア、
果てがあるとも思えない、
どこまでも続くエスカレーター、
機械油の臭いが鼻をくすぐる。
床に転がったネジも、
天井の片隅の蜘蛛の巣も、
台車の上の紙くずも、
みんなすべて計算済みで、
それらを統率してる人は大変だろうけど、
私には考える必要のないことだ。
何をすべきかわかっているのは実にいい気分で、
実にいい気分で、
叩き壊すべきものを叩き壊し、
生産すべきものを生産し、
突進すべきところに突進する、
突進する、
ベッドの横の埃だらけの床に、
突進して、目覚めて、
だらしなく上体を起こす。
もう夕暮れだ。
これから私の一日がはじまる、
長い夜がはじまる、
何をすべきか何一つ知らない、
長い夜が。
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