傷跡/小川 葉
れた
母の実家は
海というよりも
人の上に浮かんでしまう
欲望や絶望に似ていた
けっしてそれは
希望ではなかったけど
みんな希望なのだと信じていた
駅前の信号は
あの頃とおなじメロディで
青になれば思い出し
黄色になれば注意して
赤になると
もう渡ることはできない
いとこのふくらはぎの傷は
まだ傷跡として
のこってるだろうか
あの傷がまだ
赤くにじんで痛々しかった頃
景色はこんなに痛々しくはなかった
奥さんと子供たちは
元気だろうか
いとこと最後に会ったのは
このあたりが海だった
稲穂が風にそよいでいたあれはたしか夏
おなかがすいてご飯を食べていた
背中を濡らす汗が一途なので
とてもうつくしかった
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