傷跡/小川 葉
 
 
こどもの頃
お正月とお盆になると
母の実家に行った
山々にかこまれた盆地に
田んぼが海のように湛えられ
島のように点々と
街や集落が浮かんでいた

遠くに見える
おおきな島に駅前が見えた
母の実家に住んでる
いとこが駅前で仕事して
どんな作業だったかはしらないけど
ふくらはぎをざっくり切って
怪我をしたことがあった

お盆は焚き火をたいて
火をかこんでみんなで花火をした
霊を送るためのその日
生きてるものだけがそこに残されたみたいに
火をかこみながら
やがていつかは霊になることなど
知らなくてもよかったけど
生きてるということは
そういうことだ
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