オリオン座の記憶/百瀬朝子
窓ガラスの向こう側 流れる水滴 指でなぞって
描いたのはオリオン座
寒空の下の記憶
どうしてなの?
忘れたくない記憶ほど 速いスピードで薄れていくよ
嘆きと悲しみがいっぺんに押しよせて
あたしを心ごとさらっていった
どうしてなの?
押しよせた感情の波は 記憶をさらってはくれなかった
この世で一番大切なもの
あたしとあなたがオリオンの下で軽い口づけを交わした瞬間
世界で一番幸せだったはずの瞬間なのに
窓ガラスの向こう側 流れる水滴 乾いてしまったとしても
あたしは指でなぞりつづける
忘れてしまわぬように 戒めるように刻みつけるはオリオン座
中央には三つの点 その上下に二つずつ
そして 寒空の下の記憶だけ
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