フラッシュバック/百瀬朝子
鼓動にあわせて足音が
響き渡る廊下の窓から射した光は
あたしの足元から影を伸ばした
その影は闇と一体となり本来の形を失い闇を広くした
のも束の間
まばたきのうちに光は背後から射してきて
本来の形より美しいシルエットで影を取り戻した
歩みはやめず鼓動にあわせていたはずの足音が
緊張で早まるその音を置き去りにした
狂騒した心臓がやんややんやと手を叩く
皆で叩けば喝采の嵐
雷鳴轟く真夜中の旋律を
脳裏によみがえらせる思い出の記憶は
本来の形よりおぞましい出来事として刻まれた
フラッシュバックは突然に
訪れてしまえば過ぎてゆくのを待つばかり
通り過ぎる間の永遠にも似た長い時間は
ひとりスポットライトを浴びる中での苦痛の沈黙とおんなじで
やりすごすしかないあたしはうずくまり
耳を塞いで沈黙を
自分だけのものにした
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