各駅停車/鯨 勇魚
 


滲むのは、
疲れてるからなのだろう。
通勤帰り、
紺色をした他人のスーツに、
わざとらしく、
もたれ掛かる。
 
煙草の匂い。
微かに、
懐かしさを感じる事で浸るくらい、
この他人という男性も、
許してくれるだろう。
わざと、力無く。
利用してみたり。
 
声からして自分より歳下だろう。
見上げる必要性もないのだし、
聞こえないふりをしていたらいいのだ。
大丈夫な、はずがない。
 
そっとしておいて欲しいという気持ちが本音なのだ。
車窓の向こうを見つめているのに、
移りこんだ自分が邪魔をして余計に世界が滲むように思えた。
 
透き通っていた淡
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